第20章 柱稽古とお館様
四半刻ほど打ち合った結果、更紗は全身泥だらけの傷だらけ。
一方実弥は泥汚れなど一切なく、つけられた傷は手の甲のかすり傷たった1つだけ。
やはり悲しいことに実弥の動きに翻弄された更紗は何度も意識を削がれ、力を巡らせ続けることが叶わず息が上がり、汗が止めどなく全身から流れ出ていた。
「今日はこれくらいで勘弁してやる。はぁ……お陰ですっきりしたわ、お前は水でも飲んで休んどけェ」
ようやく実弥の憂さ晴らし八つ当たり……もとい地獄の無限打ち込み稽古から解放された更紗は、少し穏やかになった実弥へふわりと笑って頭を下げる。
「ありがとうございました。少しでもお役に立てたなら本望です。ではお言葉に甘え、休憩させていただきます」
頭を上げてもう一度実弥へ微笑みかけてからクルリと踵を返し、水の入った竹筒を用意してくれている鬼師範……杏寿郎の元へとゆっくり歩み寄った。
「お疲れだな、更紗。動きが随分良くなっていて正直俺も驚いたぞ」
自分を死地へ放り込んだ張本人へ苦言の1つでもと考えていたが、惚れた弱みか優しく穏やかな笑みで褒められてしまっては、更紗の毒気はあっさりと抜け落ち満面の笑みを返すことになった。