第20章 柱稽古とお館様
「覚えております……ですが改めて言われますと恥ずかしさで倒れそうです」
本当に倒れそうなほど熱くなった体をそっと抱き寄せ、まるで更紗の匂いを嗅ぐように首元に顔をうずめて大きく息を吸い込んだ。
「俺も更紗の匂いが好きだ。優しい気持ちになれる不思議な匂い……それと俺の気持ちと体を昂らせる妖艶な匂いだ」
杏寿郎の妙に色気のある声音と吐息が更紗の耳をくすぐり、道端にも関わらず心臓が早鐘を打ち意識が遠のきそうになる。
更紗がそんな様子なのに、杏寿郎は小さく笑いを零して少し体を離し顔を覗き込んだ。
「いつも更紗には不意打ちをくらわされるからな。たまには俺からも悪くないだろう?」
「不意打ちなんて……それに反則です!お外でこんなご冗談を」
言葉の途中で更紗の唇に親指を当て、スッと横へと滑らせる。
その行為と突如真剣になった杏寿郎の表情に言葉を続けることが憚られ、更紗は押し黙って不安げに見つめ返した。
「今度試して確認するか?冗談かどうかを」
不安げだった更紗の表情は一変、再び頬を真っ赤に染めつつ期待のこもった光を瞳に宿した。
そんな瞳の光に今度は杏寿郎の心臓が早鐘を打つ。
「……その……お外でなければ今度確認させていただいて……よろしいのでしょうか?」