第20章 柱稽古とお館様
事実とは異なる理想を思い浮かべて神久夜を伴い道を歩く更紗は、これからの予定にも考えを巡らせていた。
「柱稽古をさせて頂いている間に、より多く治癒能力を向上させた方がいいですよね。となると次に向かうのは実弥さんのお屋敷になります。でもそれならば柱の方々に許可をいただかなくては……杏寿郎君にもお伝えしないと」
「お嬢さん、1人で何処へ行かれるおつもりか?」
1人思案に更けていた更紗の耳に声は届かなかったが、突然腰に腕を回され、条件反射で振り向きざまにその場から飛び退いて木刀に手を当てた。
そして腰に腕を回してきた人物を瞳に映して狼狽する。
「あ、あれ?杏寿郎君……?思い浮かべてたから幻覚を?」
更紗は目をゴシゴシこすり何度も瞬きを繰り返して目の前の人物をしっかり確認するも、紛れもなく杏寿郎本人が笑顔で佇んでいた。
「幻覚ではないぞ!だが俺も君の後ろ姿を見た時は幻覚かと思った!次の柱の元へ移動するのか?」
普通に会話を続けようとしているが、更紗の頭の中は無数の疑問符で埋め尽くされておりそれどころではない。
「それよりもなぜ杏寿郎君がここにいらっしゃるのですか?!まだ柱稽古は続いておりますよね?始まってからそれほど日数は経っていないはずですが」