第20章 柱稽古とお館様
それから暫く木刀がぶつかる音だけが道場内に響き渡るが、それと並行して1人ずつ確実に剣士たちの傷が癒えていった。
更紗が前で木刀を振るう度、1人また1人と体から痛みが消えていく。
傷が癒えた剣士に粒子を纏わせていないところを見ると、明らかに現状を把握して必要な者に対してのみ処置を行っている。
「少し失礼致します」
久方ぶりに更紗の声が響き、自然とそちらへ全員の意識が持っていかれた。
そしてその姿を目にした時には更紗は小芭内から距離を取り、素早く鞄から何かを取りだし腕に突き立てている。
「鬼は君が取り込み中であっても容赦なく襲いかかってくるぞ」
「承知の上です」
その後は2人が言葉を交わすことはなく、次に声を聞けたのは更紗の木刀が小芭内の首の薄皮を1枚裂いた時だった。
「伊黒様、一太刀入れました」
「そのようだな、範囲指定は君の望むところに近付けたのか?」
2人は張り詰めていた空気を解いて木刀を下へとおろし、弾んだ息を落ち着かせるようにゆっくりと深い呼吸を行う。
それから数秒後、更紗は汗を拭いながらふわりと笑顔を覗かせて大きく頷いた。
「はい、まだ完璧とは言えませんが当初の目標の域には達しました。稽古を付けて頂くだけでなく、力の向上にまで手を貸していただきありがとうございました!このご恩は一生忘れません」