第20章 柱稽古とお館様
確かに裏はお世辞にも綺麗とは言えぬ見栄えだが、雑に繕った様子はなく不得手ながらも懸命に針を通したことが見て取れる。
その証拠の1つが、当て布に点々とついた黒いシミ。
恐らく針で指を突いた際に出た血の跡だろう。
「偉く大切にしているようだが、その羽織は煉獄に貰ったのか?」
「はい!最終選別へ行く時にいただいた着物だったんです。入隊してから羽織に仕立て直してもらいました。大切な方からいただいた物は、長く身につけていたいですよね」
そう言葉を紡ぐ更紗の頬は薄紅色に染まり、誰が見ても幸せだと実感させられるものだった。
「そういうものか?」
小芭内の脳裏にいつでも笑顔を絶やさない桃色の髪をもつ少女の姿が思い浮かんだ。
かつて自分が贈った靴下を身に付けている蜜璃の姿が。
「そういうものですよ。大切な方を身近に感じられるので、稽古にも身が入ります!明日は伊黒様へ一太刀入れて、範囲指定も上手くするので見ていてください!合格をいただいて次に進みます」
更紗の笑顔が蜜璃と重なって見え、思わず小芭内の目が柔らかく細まる。
「あぁ。だが簡単に俺に一太刀入れられると思うなよ?本気で相手するからな」
優しい表情なはずなのに、更紗には直視できないほど厳しいものに映った。