第20章 柱稽古とお館様
「痛た……伊黒様の攻撃をいなしながら剣士へ治癒をするのは大変ですね。自分の傷を癒す隙もありませんでした」
昨夜は常に持ち歩いている保存食のみで腹を満たし、風呂で汗を流すと更紗はいつの間にか眠っていた。
正直なところ鳩尾を突かれ食欲もわかず、心身共に疲れきっていたので他の傷の痛みなど感じなかった。
だがこうして朝起きて全員分の朝餉を作り出したら痛みを伴ってきて、どれだけ実力差があるのかを実感させられている。
「今日こそは一太刀だけでも入れなくては。力の範囲指定も頑張らないと……あれ?自分で柱稽古の難易度上げているような。うーん、それでも杏寿郎君は信じて下さったので出来ないことはない……ですよね?」
自問自答を繰り返している間に最後の握り飯を作り終えたので、ひとまず考えることを中断して皿を持ち上げようとするが、背後からの声で止められた。
「月神はいったい何時から起きてる?1人で全部作ったのか?……他の奴らはどうした?」
矢継ぎ早に質問を投げかけてきたのはもちろん小芭内。
更紗は皿を置いて小芭内へ向き直ると1つずつ答えを返す。
「私は一刻前くらいに起きております。皆さんは私よりお疲れですので、勝手に気分転換も兼ねて朝餉の準備をさせていただきました。簡単なものだけですが……」