第20章 柱稽古とお館様
たっぷり8日間、蜜璃の屋敷で世話になったお陰で次からは予定を立てた通りの順番で回っていく。
まずは蜜璃に告げた通り小芭内の屋敷だ。
しのぶと珠世にお願いしていた栄養剤も数日前に鎹烏で届けてくれたので、準備も整っている。
更紗は改良版注射器に入った栄養剤が鞄にあることを確認し、すっかり明るくなった空の下を駆け出した。
昨夜、早いうちに到着すれば伊黒邸へお邪魔しようかと考えていたが、さすがに日付が変わる寸前には訪ねられず、宿からの出発となる。
「……なんだかとても静かです。天元君や蜜璃ちゃんの屋敷からは怒号や悲鳴が響いていたのに。まだ訓練を始めていない……なんてことはないですよね?もう夜が明けて随分経ちますし」
伊黒邸の前へ到着した更紗はそっと門を開けて中を確認するが、やはり静まり返っており話し声すら聞こえない。
それでも人がいる気配はしっかり感じ取れるので、知らず知らずのうちに首を傾げた。
「伊黒様ー……お邪魔します」
普通の声量なのに周囲が静かすぎて思いのほか声が響く。
「確か伊黒様の稽古は太刀筋矯正でしたよね……道場にいらっしゃるのでしょうか?」
不思議な状況に思わず忍び足になりながら、稽古が行われているであろう道場へ人の気配を辿ってゆっくりと歩を進めた。
「月神か?甘露寺の稽古で苦戦していたようだな」