第19章 音柱と美しき鬼
近くの宿で1晩を明かした更紗は、まだ薄暗いうちから屋敷へと移動を開始した。
そのおかげで日が完全に昇る頃には数日ぶりの我が家へと到着し、玄関をくぐることが出来た。
「ただいま戻りました!」
帰りの挨拶もそこそこに、更紗は杏寿郎が姿を現す前に草履を脱いで居間へと続く廊下を歩くが、そこへ到着する前にバタバタと足音が響き杏寿郎が顔を出す。
「更紗?!まだ4日しか経っていないぞ?!……その顔、何か相談したいことでもあるのか?」
さすが何度も無茶を聞かされてきただけの事はある。
強い意志を灯した更紗の表情を瞬時に見極め……背中に冷や汗を伝わせた。
「まさかすぐにバレるとは思いもしませんでしたが、その通りです。杏寿郎君の許可を頂きに戻ったので、お話を聞いていただけますか?稽古が始まるまでには終わるかと思いますし、朝餉の準備を私も共にいたしますので」
土間には数足の草履が並べられていた。
つまり昨日で天元のしごきを無事くぐり抜け、杏寿郎の稽古を受けるためにこの屋敷へとやってきた剣士がいるということだ。
となると杏寿郎にあまり時間はない。
「……分かった。先に居間で話しを聞くが……許可と言っても君に押し切られそうな予感しかせんな」