第19章 音柱と美しき鬼
産屋敷邸は純和風な造りの屋敷だが、目の前の扉は襖や障子といった類いではなく取っ手のついたものだった。
(これが世に言う和洋折衷なのでしょうか?不思議と違和感なく溶け込んでいます……それより、この中に物静かで穏やかな珠世様が)
珠世が鬼だという事実よりも、しのぶが悔しがるほどの頭脳を持ち、尚且つ物静かで穏やかな性格の女性にひどく興味が引かれ、しのぶが開きつつある扉の隙間へ身を乗り出していると……
ガンッ
と額に強い衝撃が走った。
それにより脳が少し揺れたのか軽く目眩を覚え、額を押さえ床にしゃがみ込んだ。
「更紗ちゃん?!大丈夫ですか?!」
「い、痛……くないです。すみません、気持ちが先走りはしたない真似をした罰が当たったようです……」
覗き込んでいる更紗の姿を見ていたしのぶが勢いよく扉を開くわけがない。
つまり中からしのぶと同時に扉を開いた人物がいるわけで……その人物に驚かせたことを謝罪しなくてはと涙の溜まった瞳を上へ向けると、やはり驚いたのか目を丸くして立ち尽くす美しい女性の姿があった。
「申し訳ございません、秀才で穏やかな女性を早く目にしたいと興味の全てを持っていかれまして……このような結果になりました。はじめまして、私は月神 更紗と申します。珠世様、よろしくお願いいたします」