第19章 音柱と美しき鬼
「そう……でしたか。私の方こそお気遣いいただいてありがとうございます。しのぶさんはお優しいので、今のように感情を抑えて辛い思いをされているのではと時々不安になります」
しのぶが普段から心の奥底に怒りを燻らせていたのは何となく感じ取っていたが、いたずらに踏み込むのは気が引けて言い出せなかった。
何に対しての怒りかなど、鬼殺隊に属し柱にまで上り詰めたのならば聞かなくても想像に容易い。
そんなしのぶが鬼舞辻を倒すためとは言え、鬼と共に研究を進めているとなると精神が昂り、怒りが漏れ出てしまうのも仕方の無いことだろう。
「ありがとう。私も大丈夫……とまでは言えませんが、皆の悲願のためですし、何よりあの方……珠世さんはすごい方です。きっとあのような人を天才と呼ぶのでしょうね。少し悔しいくらいです」
そう言ってしのぶは先を促すように更紗の背に手を当て、再び足を動かし目的の部屋へと移動を開始した。
更紗もそれに逆らうことなくしのぶに導かれるまま廊下を歩くも、天才2人に囲まれて研究の手伝いをすることに対して不安が押し寄せ、自然と顔が強ばっていく。
「あの……」
「不安に思うことはありません。更紗ちゃんの力があってこそ成り立つ研究もありますし、こちらは猫の手も借りたいほどな状況ですから。さ、着きましたよ」