第19章 音柱と美しき鬼
本部である産屋敷邸の門の前に辿り着く頃には、すっかり息も上がり汗で隊服が湿っていた。
門が見え始めた時、神久夜が一足先に更紗の到着をしのぶに伝えに行ってくれたので、そろそろ内側からしのぶが門を開けてくれる手筈となっている。
その間に手拭いで目に見える範囲の汗を拭い取り、見苦しくないよう身なりを可能な限り整えていると、重厚な門が開き中からいつも通り穏やかな笑みをたたえたしのぶが姿を現した。
「お久しぶりです、しのぶさん。遅くなり申し訳ございません」
「お久しぶりです。私こそ突然呼び立ててしまってすみません。さぁ、中へ入ってください。早速ご紹介させていただきます」
しのぶの後に続いてソロソロと門をくぐり、広く手入れの行き届いた庭を通り玄関へ。
いつもは待機場所となっている部屋へと案内されていたが、今日はいつもの部屋とは違うようで、長い廊下を右へ左へとズンズン奥へと進んでいく。
廊下を歩いている間、しのぶは笑みを決して崩すことは無かったが、ずっとピリピリとした空気を醸し出しており、更紗の全身を刺激していた。
その理由を本人へ聞くに聞けないまま疑問だけが残り、自然と更紗の緊張感も高まっていった。