第19章 音柱と美しき鬼
空が暗くなり始めた頃、杏寿郎の元に手紙を携えた神久夜が静かに舞い降りた。
「ご苦労だったな、神久夜。朝まで休んでいくといい」
手紙を受け取り神久夜を膝の上に乗せると、焦って封をしたと思われる歪な封筒を嬉しそうに開いた。
内容は読まずとも検討はついていたが、本当に想像通りの内容で更に笑みが深まる。
「わざわざ謝罪など必要ないのにな。君の相方は相変わらず何でも気にし過ぎる。一緒に作ったのだから、怒ったり困ったりするはずないのだが」
杏寿郎は居間の卓袱台の上に鎮座している握り飯とおかずをチラと見遣り、ふと表情を和らげた。
朝、更紗が出立する時には山盛りだった握り飯は半分以上減っており、それはもちろん杏寿郎の胃袋の中に消えていったことを意味している。
このままだと明日の昼には無くなっているだろう。
「それにしても……油虫の大群に襲われるなど、どうすればそうなるのだ?フフッ、いつも通りあの子が行動を起こすと何かしら起きるから飽きないな」
慌てふためく姿を想像すると、本人には申し訳ないが嫌でも笑いが込み上げてきて、つい吹き出してしまった。
「また帰ってきたら色々聞かせてもらわねば。さて、俺もそろそろ休むとするか……稽古の準備に備えなくては」
今は誰も返してくれないが、神久夜がそれに同意するかのように頷いたので、背をそっと撫でて立ち上がり寝室へと足を向けた。