第19章 音柱と美しき鬼
「どうかしたの?具合でも悪い?」
「いえ!今からでも山越え出来そうなほど元気は有り余っています!あの……あ、明日も頑張らねばと思ったていたのです!頑張りついでに、明日の朝は私も一緒にご飯を作らせてください。前にご一緒させていただいて、すごく楽しかったので」
誤魔化すような焦り具合に雛鶴は首を傾げるが、体調が悪いわけではなさそうなので深く追求はせず、ずぶ濡れになってしまった頭をそっと撫でた。
「無理しなくていいのよ?姫ちゃんは朝から天元様の稽古があるんだから。でももし朝起きて辛くなかったら、その時は一緒に作ってくれるかしら?」
「はい!私、鬼殺隊に入れて幸せだと思います。杏寿郎君を通じて、こうして素敵なご縁に巡り会えたのですから。明日の朝、楽しみにしています」
ふにゃっとした更紗の笑顔に、今まで横で喧嘩をしていたまきをと須磨が反応して更紗に飛びついていき、再び湯を立ち上らせたものだから、今度は雛鶴も頭から湯を被ってしまった。
静かに雛鶴から怒られる2人を横目に、ふと今日作ってきた大量のご飯を思い出して青ざめた。
(……杏寿郎君、ごめんなさい。今朝から柱稽古だと張り切って握り飯をたくさん作りましたが……今日は杏寿郎君のところに剣士たちは赴きませんよね……どうしよう、あんな量1人で食べきれない)
大量の握り飯を前に立ち尽くす杏寿郎の姿を思い浮かべ、後で神久夜に手紙を届けてもらおうと更紗は心から思った。