第19章 音柱と美しき鬼
しかも須磨は勢いよく浴槽に飛び込んできたので湯が外に溢れ、更紗は頭から被ることになってしまった。
ぽたぽたと髪から雫を滴せる更紗の隣りでは、いつもの如くまきをが須磨を叱りつけている。
そんな中、安定して面倒を見てくれるのは雛鶴だった。
「姫ちゃん大丈夫だった?可哀想に、こんなにずぶ濡れになっちゃって」
手拭いで優しく髪を拭ってくれる雛鶴に、更紗は顔を綻ばせて手を胸の前で合わせる。
「大丈夫です!ちょうど寂しかったので皆さんが来てくださってホッとしました。あ、今日のお昼と夜のご飯ありがとうございます。すごく美味しくて……お陰様で稽古を乗り切れました」
実際、天元の嫁たちが食事の用意をしてくれていたから、剣士たちの体力がギリギリであっても持ったのだ。
これで自炊しろと言われていれば、朝の稽古の時点で倒れていた者が多かっただろう。
「いいのよ。姫ちゃんたち剣士が稽古に励めるよう支えるのも、元柱の妻として当たり前ですから。貴女たちが鬼を倒すために頑張ってくれてるのだから、私たちも出来ることをしなくちゃね」
ニコリと笑う雛鶴は同じ女である更紗から見ても見惚れるほど綺麗で、見つめられると瞳に吸い込まれそうで思わず目を浴槽内に落としてしまった。