第19章 音柱と美しき鬼
(確か杏寿郎君のお話では他の剣士たちと差は付けられないとの事でしたが……違う方向に差をつけられました)
天元から新たに課せられた稽古の達成条件。
他の剣士たちが麓から麓まで1周する間に山越えをして戻ってくること。
即ち更紗たちは他の剣士たちより2倍の速度で走らなくてはならなくなったのだ。
何度か休憩を挟んでくれたが、少しの休憩では限界を迎えた肺はなかなか言うことを聞いてはくれなかった。
疲れ果てた更紗たちは条件を達成出来ぬまま一日を終え、現在は男女順番で風呂を貸してもらい疲れを癒している。
「それにしても女の人の剣士、今日は1人もいませんでした。やはり相対的に少ないのでしょうか。カナヲさんもいらっしゃいませんでしたし……稽古開始の日程がそれぞれ違うのかな?」
湯船を1人広々と占領出来るのは贅沢で気持ちがいいが、誰も話し相手がいないのは寂しいのか眉がハの字になっている。
「1人ぼっち……天元君の奥様方をお誘いすれば」
「姫ちゃーん!一緒に入ろー!」
噂をすれば何とやら、まるで更紗が寂しくなる頃合を見計らったかのように須磨を先頭としてまきを、雛鶴が風呂場へとやって来た。