第19章 音柱と美しき鬼
当時の惨劇を思い出し身震いする更紗を見て、天元も身震いした。
「え?何その惨状……俺知らねぇけど」
「え?でも油虫の大群が……天元君の罠じゃないのですか?」
天元は激しく首を左右に振って自分ではないと示す。
「いやいや、普通に考えてみろよ。確かに虫の多い木に紐括りつけて落ちるようにはしたが、誰が好き好んで油虫集めんだよ……流石に俺もそこまで見境なくねぇって」
「……では偶然、私が油虫の大群がいる所を刺激した……と言うことでしょうか?」
悲惨だ。
罠なら天元に苦言を呈してモヤモヤを晴らせるが、自ら突っ込んで行った結果、大群に襲われたとなると苦言を呈すどころか恥ずかしいだけである。
例に漏れず更紗の顔は赤くなり目が潤んでいる。
「ブハッ!ちょ、もう勘弁してくれ!どんな奇跡起こしてんだよ!まぁなんだ、山には色んなのがいるからそういう事もあるだろ。昼からは気をつけな……」
ぽんぽんと頭を軽く撫でられ、鈴の音を辺りに響かせながら更紗は俯き小さく頷くしか出来なかった。
「お、鈴付けてんだな!……もう一個のは煉獄のか?」
「あ、はい!せっかくなので天元君の鈴を髪紐に付けたら、杏寿郎君もお守りにと鈴を下さいました」