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月夜の軌跡【鬼滅の刃】

第19章 音柱と美しき鬼


額に流れる汗を腕で拭いながら穴の中へ両手を差し出すと、名前も知らない剣士が瞳を潤ませて腕を伸ばしてきた。

「ありがとう……実は穴の中によく分からない虫の死骸が敷き詰められてて、それを見た奴ら全員が出した手を引っ込めて走り去っていきやがったんだよ」

思わず更紗の両手も止まりかけたが、まるで捨てられた仔犬のような瞳で訴えかけてくる剣士を見捨てることは出来なかった。

「……それは……なんとも災難でしたね。引っ張りあげますのでじっとしていて下さい」

合図で飛び上がってくれと言われるのかと思っていた剣士は、じっとしていてくれと言われ、更紗の手を握りながら呆然としていたが……突如腕が物凄い力で引っ張られ、気が付けば地上へと帰還していた。

「まだまだ稽古は続きますが、お互い頑張りましょうね!」

自分の膝についていた砂埃を叩き終えると、剣士の隊服に付いていた虫の破片をも叩き落として手をパンパンと払い笑顔で走り去って行く、髪紐に2つの金の鈴を付けた少女の後ろ姿を剣士は見送った。

「あ……あの子、宇髄さんの鈴取った子だ。確か煉獄さんの継子……え、力半端ないし気遣いすげぇな。ん?鈴2つ?」

疑問を抱きながら慌てて更紗のあとを走る。

ちなみに金の鈴のもう1つは言わずもがな杏寿郎のもの。
出立前に継子全員にお守りを杏寿郎から渡されたのだが、更紗の分は金の鈴だった。
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