第19章 音柱と美しき鬼
「そんなに赤くなられては期待してしまうのだが」
体がピクリと跳ね、これ以上体温や心拍数が上がれば痣が発現するのが先か気絶するのが先か……と心配しつつ、更紗の口から聞きたい杏寿郎はじっと待つことに決める。
辛抱強く待つこと数分……
そろそろ自分の体が限界かもしれないと悟った更紗が、ようやく小さな声でぽつりと呟いた。
「肌を……合わせていただけませんか?」
消え入りそうな声には更紗の精一杯の願いが込められており、杏寿郎にとって願ってもない言葉で体温が更紗と同様徐々に上がっていく。
「断るはずがない。心配するならば俺の理性が吹き飛ばないかだけを心配していてくれ」
「心配もなにも……杏寿郎君のしてくださることなら何でも受け入れます」
小さい声ながらも大胆な返答に杏寿郎は体の力を抜いて更紗の背にしなだれかかった。
「更紗は恥ずかしがり屋の癖に、まれに煽ってくるので欲のまま身を委ねたくなってしまう……受け入れてもらえるのは男冥利に尽きるがな」
まだ夜の帳が下りたばかり、2人はしばしの別れを惜しむかのように互いの温もりを忘れぬよう肌を寄せ合って共にすごした。