第17章 歪みと嘘
恐る恐る地面へしゃがみ込むと、目の前に翳されていた杏寿郎の手が離れる。
「鬼は俺が見張っている……必要ならば俺の襯衣を渡すので声をかけてくれ」
つまりそういう事だ。
戦闘時とはまた違う……心臓が嫌な音を立てて更紗の胸を激しく叩く。
「か……しこまりました。少々お待ちください」
もうごちゃごちゃ言ってられない。
ある程度状態が分かったので更紗は意を決して纏わせてくれた羽織の中を勢いよく覗き込んだ。
「あ……なるほどです。あばずれ……」
辛うじて見えてはいけないところは隠れているが、本当にそれだけである。
杏寿郎に貸してもらった隊服は見るも無残な状態で、繕って返却などという可愛い損傷ではなかった。
スカートが上の隊服と比べると比較的損傷が少なかったのがせめてもの救いだ。
更紗は溜息をつきながら中の襯衣を前後反対に着直し、煽られ損傷をギリギリ免れた羽織を先程と同じように胸元で結び、どうにか自分と杏寿郎の上半身が外気に晒されるのを防いだ。
「お待たせしました。羽織、ありがとうございます……隊服をお返し出来ず申し訳ございません」
しょぼくれる更紗に背を向けたまま杏寿郎は視線のみを向け、ニコッと微笑んで返した。