第17章 歪みと嘘
体力、速度、力、技の熟練度など総合的な力量は間違いなく杏寿郎に軍杯が上がる。
だがすばしっこさや跳躍力、女性特有の体のしなやかさは更紗の方が得意とするところだ。
それに万が一子供鬼の懐に上手く入り込めなかった場合、杏寿郎に痛手を負わせるのは状況的に非常にまずい。
「私が行くとして……後で師範には叱られそうですね」
計画を伝えようにも攻撃が止まない現状だとそんな暇もなく、何より子供鬼に聞かれては今以上に接近することが困難となる。
「師範不幸者ですみません……ふぅ、師範!」
罪悪感を胸に押し込め小さく謝罪した後に大声で杏寿郎を呼ぶと、攻撃の手を緩めぬまま反応した。
「また何か無茶な事を考えついたのではあるまいな?!」
ばれている。
「あ……い、いえ!とりあえず私を信じて援護をお願い出来ませんか?」
暫く沈黙のまま互いに攻防を続けている。
間違いなく杏寿郎は更紗が考えそうな事を脳内に巡らせ、様々な事態を想定して許可を出すかどうか考えているのだろう。
放たれてくる攻撃の合間、懸命に鬼の攻撃を避けては反撃を繰り返す更紗をチラと見遣る。
いつも突飛なことを思いついては許可を下すのを待たずに行動に出ていた更紗が、今は辛抱強く許可が下りるのを待っている。