第17章 歪みと嘘
聞こえたのか口の動きで言葉を理解したのか……それは更紗にも分からないが、今の言葉に無一郎が悲しげに瞳を揺らせた直後、驚き目を見張ったのは分かった。
「俺の父は君と似た瞳の色をしていた。とても優しく、とても大切な事を教えてくれた人だったんだ」
『記憶が……戻ったのですか?』
そんな問いかけに無一郎は更紗へ初めて笑みを返し、水の牢獄へ顔を近付けた。
「人は自分ではない誰かのために……驚くほどの力を出せる生き物なんだって。さっきの更紗ちゃんの行動はそれだったんだね」
そろそろ肺の空気が尽きかけている更紗へ、無一郎は水の牢獄に口をつけて息を吐き出し、大量の空気を送り込んだ後すぐに上弦の伍と対峙する。
「もう少し待ってて、あの鬼を足止めしたらすぐに助けに戻るから」
その声は涙が出そうになるほど優しく温かなものだった。
(助けられてばかりではいけません。自分でここから出ないと)
再び戦闘に戻って行った無一郎を見ると、今度は更紗が目を見張る番となる。
(痣が!は、早く出て抑制剤を渡さないと!何の技にしよう?!えっと……えっと……炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天!)