第17章 歪みと嘘
走り地面を蹴った勢いと更紗の女子とは思えない力で突き飛ばされた無一郎は水の牢獄から無事に逃れることが出来たが、代わりに更紗がそれに閉じ込められた。
「何してるの?!そんな力残ってるなら刀鍛冶を連れて逃げればよかったでしょ!」
刃こぼれ1つない日輪刀で助け出そうと切り付けても、考えられないほどの弾力で切り裂けない。
見たところ文字通りの水の牢獄の中は水で満たされており、このままではいくら肺を鍛えている剣士であってもすぐに溺死してしまうだろう。
それは更紗が1番理解している。
肺の中にまだ空気が残っていても、そんなものは毛ほども役に立たない。
諦めるわけではないが、更紗は焦った表情で見つめる無一郎にゆっくり首を左右に振った。
『情けは人の為ならず……他の人にした事は巡り巡って自分へ返ってきます。私は時透様に助けていただいたものを返しただけ』
口を開く度にゴポゴポと肺の中の空気が水へと消えていく。
聞こえないかもしれないと考えながらも、どうしても伝えたかった。
「もういい、喋らないで!でないと君が……」
『鉄穴森様たちを……里や鬼殺隊を守って』
更紗は迫り来る上弦の伍を指差し、ニコッと無一郎へ笑顔を向けた。