第17章 歪みと嘘
杏寿郎の中で生死不明となっている更紗は全身に痺れがあるものの、もちろん命の危機には陥っておらず刀を握り締めながら無一郎の闘いを見つめていた。
事前に幾つか伝えていた更紗からの情報が役立っているのか、今のところ傷1つ負ってはいない。流石は2ヶ月で柱となっただけのことはある。
しかし上弦の鬼は柱3人分の力量だ、体が痺れているからといっていつまでも悠長に観戦し惚けているわけにはいかない。このままでは本当に時間稼ぎのみをしただけとなってしまい、無尽蔵に動けない無一郎へ負担がかかってしまう。
そんな更紗の嫌な考えは今まさに現実となりかけていた。徐々に体力を奪われた無一郎は見たことのない上弦の伍の血鬼術で、水の牢獄のようなものに閉じ込められようとしている。
その瞬間、更紗は体の痺れなど感じなくなり無一郎へと走り寄って行く。
(あぁ……また師範に怒られてしまうかもしれない)
それでも体が痺れて使いものにならない自分より、怪我一つ負っていない柱という貴重な戦力を守りたかった。
杏寿郎と交わした里の人を守り鬼を倒すという約束を守りたかった。
無我夢中で地面を蹴って腕を伸ばし、無一郎を突き飛ばした。