第17章 歪みと嘘
「なんだと?」
錫杖の鬼の思惑通り杏寿郎の瞳が絶望に揺れる。
しかしまだ懐疑的で、あと少し揺さぶりを続けなくてはならない。
今度は槍の鬼が眉を下げた表情のまま、口元に笑みを浮かべて続けた。
「まだ若い娘が嘆かわしいなぁ。身体中玉壺の針に貫かれて穴だらけだぞ?顔にも首にも鳩尾にも針が無数に突き刺さり、さぞかし痛く辛い思いをしているのだろうなぁ」
鬼は自分の身を守る為ならば平気で嘘をつき相手を誑かす。
杏寿郎もそれを今までの経験で嫌という程知っているが、こちらは鬼のように離れた場所から剣士同士情報共有が出来ないので真実は分からない。
「貴様らのその情報が嘘か真実か分からんが……これからは足止めだけですむと思うな!」
精神を揺さぶられ隙を見せるどころか闘気は益々練り上げられていき、目の前の2体の鬼に対する怒りから杏寿郎の日輪刀を握る力が格段に上がってカタカタと刃を震わせる。
「その刃の色……あの方の記憶にあるものと同じ……赫刀だと」
「何わけの分からんことを言っている!無駄話をするほど余裕があるとは……随分と見くびられたものだ!」
杏寿郎はもちろん自身の日輪刀に異変が起こったことを視認している。だがそれがなんだと言うのだ。
ここでモタモタしている間に失いたくない命が危険にさらされてしまった。