第17章 歪みと嘘
更紗が麻痺毒に冒される少し前、杏寿郎は既に玄弥を炭治郎の元へ向かう命令を下して1人で2体の鬼を相手にしていた。
痣が出ていようと流石に雷を全て避け切るのは困難だったようで、肌や隊服、羽織が所々焼けている。
「煩わしいのぉ。柱とはほんに煩わしい。とっととくたばってくれんか」
くたばってくれと言われてくたばる剣士などいるはずもない。
それはもちろんここを請け負った杏寿郎も同じくである。
「俺は死なないしお前たちをここから絶対に離さん!後輩たちが本体の頸を斬り落とすまで俺の相手をしていてもらうぞ!」
それを有言実行しているのだから杏寿郎の強さは鬼が当初想定していたものを遥かに超えている。
何か目の前の柱の精神を揺さぶるものはないかと錫杖の鬼は雷を落としながら考えを巡らせ、思い当たるものを1つ見つけた。
「貴様は弟子がいるらしいな。あの方が手に入れようとしている娘……あの娘が玉壺の毒に殺られたらしいぞ?いつ死んでもおかしくないほど衰弱しているようだ」
嘘である。
玉壺との情報の共有で更紗が毒に冒されていると知ったが、麻痺毒なので今すぐ死ぬようなものではない。
だがそれを誇張して杏寿郎へ伝えれば精神が揺さぶられ、隙を見せると考えたのだ。