第17章 歪みと嘘
大腿部に突き刺さった棘を抜き取り地面へ放り投げながら後ろを確認すると、どうにか誰にも棘は刺さっていなかった。
それに安堵するも、呼吸を使う上で重要な脚の感覚が麻痺していくことに内心焦りを感じている。
しかも更紗は決して足が速いほうではない。
徒競走など柱とした経験がないので順位は付けられないが、杏寿郎と本気で勝負したとしても更紗が勝つことは不可能なくらいの速さである。
「せめて毒の巡りを呼吸で抑えなくては……」
「鉄穴森さん!お姉さん、鉄穴森さんが襲われてる!」
最悪な状況の時に限って何かしら起こるものだ。
小鉄の指さす方へ視線を動かす前にそちらへ体を移動させて鉄穴森を襲っていた巨大金魚を討伐すると、今度はその影から棘を吐く金魚が現れ先ほどと同じように頬を膨らませ攻撃態勢に入った。
今から構えたとて間に合わないと悟った更紗は地面に倒れている鉄穴森の上に覆いかぶさる。
「鉄穴森様、体を丸めてください!」
今まで何度か更紗と顔を合わせ言葉を交わしてきたが、鉄穴森はこのように大きな声を発する更紗を初めて目にした。
それに驚き体を丸めそうになるも、この中で闘う術を持つ更紗を盾には出来ないと力一杯突き飛ばした……はずが想定外の怪力でそれは叶わなかった。