第17章 歪みと嘘
「私はまだまだ弱いですが、私は師範のような人になりたいです。師範なら命に優先順位をつけろとは言いません。それに、情けは人の為ならず……だと思っています。時透様、どうかご無事で……また後ほど必ずお会いしましょうね」
「その言葉……」
柱が話している途中に背を向けるのは失礼だと理解しながらも、更紗は両脇に2人を抱えて鬼のいる方へと移動を開始した。
「よかったの?あの人、柱なんでしょ?しかもこの先にいるのが上弦の鬼ならお姉さんだけじゃ……」
幼いながらも的を得た小鉄の言葉に更紗は苦笑いを零す。
「私だけでは倒すことは難しいかもしれませんね。ですがあなた方の命は必ず守りますし、私も死にません。私は二度とあの人を苦しめる嘘をつかないと心に決めたので」
天元の家へ招かれた夜、更紗は杏寿郎に交わした約束を破りそばを離れようとした。
屋敷の当主が鬼舞辻の手によって鬼にされ、本格的に自分が鬼から追われる身になったと知ったからだ。
あの時の杏寿郎は怒り悲しんでいた。
ただでさえ心配させることの多いこの身だからこそ、優しい杏寿郎を二度と苦しませる嘘はつかないと心に決めたのだ。