第17章 歪みと嘘
隊服を着用し髪を素早く結い上げる。
部屋で交代して有事に備えようとしていたが、こんなにも早く杏寿郎の機転が役に立つだなんで想像もしていなかった。
それもこの刀鍛冶の里の中で事が起こるなど、更紗でなくとも杏寿郎でさえ想定していなかっただろう。
「やはり私がいたからでしょうか……」
胸の痛みに顔をしかめても今は悩んでる時間や悔やんでる時間はない。頭を振って気持ちを切り替え、持参していた日輪刀を腰に差して脱衣場を出る。
そこを出ると既に杏寿郎は羽織まで全て準備を整え終え厳しい表情で立っていた。
「お待たせしました」
「いや、俺も今来たところだ。走るぞ」
「はい」
短いやり取りを終えると同時に2人は鬼の気配がする方へと急ぎ足を動かす。
露天へと続いている長い階段を駆け下りている最中、顔色の冴えない更紗へ杏寿郎は視線を前に向けたまま声を掛けた。
「事実は分からんが更紗がこの里にいたから鬼が来たのではないはずだ。対応が遅すぎるからな。それでも思うところはあるだろうが救える人は多くいる。いつも通り全力でいくぞ」
更紗たちがここに滞在して1週間余り。
鬼側からすれば刀鍛冶の里の場所が分かればすぐにでも奇襲をかけてくるはず。
日輪刀を手がける刀鍛冶が身を隠している里など早く潰すに越したことはないからだ。