第17章 歪みと嘘
だが更紗をこの里へと指示を出したのは他でもないお館様である。
わざわざ里を危険に晒すようなことはしない。
「心配ない。君が攫われた原因はどこからかあの合戦の情報が漏れ出たものだろうと推測されている。それに夜な夜な更紗は鬼に追われていたが、昼間はどうだった?」
「お昼の間は……鬼の気配は近くになかったと思います。野宿をしていても襲われませんでしたし」
更紗の過酷な10日間を思うだけで杏寿郎は涙が出そうだったが、それをどうにか堪えた。
「そういう事だ。鬼側は更紗の居場所を逐一把握してはいない。だからここにいても問題ないし、屋敷へも気にせず戻っておいで。更紗がいなくては広い母屋で俺が1人になってしまう」
いつも2人で共に過ごしていたあの広い母屋で突然1人になってしまうと、どうしても姿を探してしまう。
それも寝食を共にしていた少女が野宿をしていると考えると、鬼に屋敷を知られる危険云々以前に心配で眠れたものではないだろう。
「はい……私も夜に1人で徘徊してお昼間に睡眠は少し疲れちゃいました。それに杏寿郎君と一緒にいられる幸せを知ってしまっては、1人は思いのほか辛く感じます」