第17章 歪みと嘘
そうなのかと杏寿郎が爽籟を見遣ると恥ずかしいのか、プルプルと震えた後に小さく頷いて向こうを向いてしまった。
「ふむ、そうだったか!それはとんだ勘違いをしてしまったな!さて、俺たちは朝餉をいただきに行こうと思っているのだが、君たちは既に済ませたのか?」
更紗に順番に撫でられ微睡んでいた鴉たちは顔を見合わせて杏寿郎へと向き直った。
「マダダ!デハコチラモ食事ヲイタダクコトニスル!」
要が僅かに開かれている窓の縁へと飛び立つと爽籟も続けて飛び立つも、神久夜は更紗の足から飛び立とうとしなかった。
ずっと甘えるように更紗の腹の上に頭を置いている姿があまりに可愛く、更紗は腕に抱き寄せて窓で待つ2羽に声を掛けた。
「神久夜さんともう少し一緒にいます。先にご飯を召し上がってきてくださいますか?」
「ウム!存分ニ少女二甘エルトイイ!」
言う言葉まで杏寿郎そっくりの要が爽籟を伴って明るくなった空へと羽ばたいていく姿を2人と1羽で見送った。
「杏寿郎君、神久夜さんも一緒に朝餉を取らせていただいてよろしいでしょうか?悲しい別れ方をしたので、神久夜さんとも一緒にいたいです」
「勿論だ!神久夜はずっと君を心配して食事もあまり喉を通らなかったようなので、要の言う通り存分に甘えさせしっかり食事を取らせてやりなさい」
喜ぶ1人と1羽を微笑ましく眺め普通の平和な日常の幸せを噛み締めたが、嵐の前の静けさだとはまだ誰も気付いていない。