第16章 柱と温泉
思いがけない出来事に襲われながらも更紗は気を取り直して浴衣へと着替え、杏寿郎の指示通り里の人に水を貰い部屋へと急いだ。
「お待たせしました。1度に持てず氷は今から戴いてきます、もう暫くお待ち下さいね」
水の入った盥を杏寿郎の隣りに置いて再び部屋を出ようとする更紗の手を掴み、杏寿郎が腰を上げて立ち上がり更紗を座らせた。
「俺が貰いに行ってくる。更紗も万全ではないのでここで待っていてくれ。脇の下や首筋に濡れた手拭いを当ててやってくれるか?」
「ありがとうございます。では氷はお願いします。玄弥さんは私にお任せ下さい」
頭を下げる更紗に頷き杏寿郎は静かに部屋を出ていった。
それを見送ると更紗は未だに全身火照らせて苦しそうに眉を寄せる玄弥へと向き直り、近くに置かれた手拭いを水で湿らせて脇や首筋へ当てる。
「逆上せは対応したことないですが……私の力で治せるのでしょうか?」
幸いにも今はこの部屋には2人だけしかおらず、部屋へ新たに入ってくるのも杏寿郎だけだ。
しかも玄弥は気を失っているので見られてしまうこともない。
更紗はそっと玄弥の頭に手を当てがってフワフワと粒子を纏わせてみた。