第16章 柱と温泉
その様子は薄暗い部屋の中でもよく映え、歪になってしまっている毛先も気にならなくなるほどで思わず目を奪われた。
「杏寿郎君に好いてもらえる髪は私の自慢です。伸ばせるからと言ってあまり切らないように気を付けなくてはいけませんね」
自分の髪を一房取りクルクルと弄ぶ姿は少し幼く杏寿郎の庇護欲を掻き立てる。
それでも疲れている更紗の体に無理をさせる訳にはいかないと深呼吸を零して頭の熱を発散させる。
「そうだな。これからは更紗がこうして髪を切らずに済むよう、俺がそばにいてやれたらと心から思う……そうだ!ここは温泉が湧いているので一緒に入りに行かないか?露天になっていて気持ちがいいぞ!」
突然の杏寿郎の提案に更紗は頬を赤く染め、目をキラキラと輝かせながら振り向いた。
「行きたい!です!水浴びしかしていなかったので体の汚れも気になりますし……何より汗でベタベタしていまして。それに温泉なんて初めてです!杏寿郎君、早く行きましょ!」
杏寿郎の足の間で立ち上がり、早くとせがむように手を握ってグイグイと引っ張っている。
夕餉の時と同じくはしゃぐ更紗に目尻を下げて恵比寿顔となった杏寿郎は、腰を上げて引っ張られるまま足を動かした。