第16章 柱と温泉
夕餉を運び部屋で2人で食べている間、終始更紗はニコニコとご機嫌だった。
それは夕餉を食べ終わった今でも続いており、杏寿郎の足の間で大人しく座っている後ろ姿からでも分かるほどだ。
その後ろ姿から見える髪の毛先は歪で揃っておらず、最後に見た時よりも少し短くなっているように見える。
その髪を片手ですくい取り、放浪生活での更紗の苦肉の策が垣間見え目を細めて後ろから抱き寄せた。
「更紗、逃亡している時に髪を切ったのか?」
「ん?はい。髪を短くすれば鬼に気付かれないかもしれないと思ったのですが、全く意味がありませんでした。やはりこの髪色は目立ちますね、あの時ばかりは染め粉があればと何度も思いました」
その時の事を思い出しながら笑っているようだが、今だからこそ笑えるものであって当時はさぞかし落胆しただろう。
「確かに君の髪色は珍しいが俺はこの色がとても気に入っている。柔らかい月明かりのようで見ているだけで心が穏やかになる。とても綺麗で、つい手で触れたくなってしまう」
更紗の首元からスっと髪を梳き、その手を横へ滑らせると一切の抵抗もなく毛先まで滑りパラパラと元の場所へと戻っていく。