第16章 柱と温泉
「フフッ、食事もあまり取れていなかっただろう?俺もまだ夕餉は戴いていないんだ。ここへ運んで来るので待っていてくれ」
腹を鳴らし恥ずかしさから体温を一気に上げた更紗の頭を一撫でして立ち上がると、それに続いて更紗も立ち上がり杏寿郎の手を握った。
「私も一緒に行きたいです。食べる量が多くてお櫃も必要ですし……その、今日ばかりはあまり杏寿郎君と離れたくありません。ダメですか?」
恥ずかしそうに見上げられてしまっては杏寿郎は断れない。
頬がゆるゆるに緩みきっている。
「そのように可愛くねだられては無碍に出来るわけがなかろう!ふむ……体は心配だが、ゆっくり向かうとするか!疲れたら立ち止まって構わない、急ぐ必要などないのでな!」
「可愛く?……でもありがとうございます!体はもう随分と良くなりましたので大丈夫ですが、ゆっくり歩いてくださるのは助かります。ではご飯に向けていざ出発です!」
早速ズンズンと早足で杏寿郎の手を元気に引っ張り歩いて行く更紗を咎めようとはしなかった。
天元に甘やかしてやれと言われているのもあるが、夕餉に喜び子供のようにはしゃぐ更紗を咎めるのがしのびなく、束の間の休息を存分に楽しませてやりたいと思ったからだ。