第16章 柱と温泉
何を持って心配無用なのか聞きたいところだが、杏寿郎に以前注意された事を忠実に守り服を脱がずに行水を行ったのだと分かると怒るに怒れない。
「そうか……出来るならば宿か何かで気兼ねなく風呂に入ってもらえると助かるのだが」
「分かり……ました?次から善処します」
あまり分かっていないような口調だったので頭を上げて更紗の顔を覗き込むと、案の定キョトンと首を傾げている所だった。
難しいことは言っていないが……と思いつつも、これ以上疲れて衰弱している更紗を責めるのも可哀想だと思い直し、体を更紗の隣りへ移して一段と細くなってしまった体を胸元へと誘う。
「それより、よく頑張ったな。さぞかし辛かっただろうに……今は何も考えず休むといい。ここならば鬼も追っては来れないので体を癒すにはうってつけだ」
幼子をあやすように背中をポンポンと軽く叩いてやると、今までの恐怖や心細さが思い出されたのか、それを紛らわそうと杏寿郎の浴衣を握り締めて擦り寄っていった。
「もう十分癒されております。もう何もいらないくらい……」
ぐぅ……
こんな時に限って体は何かしら主張してくる。
本人が何もいらないと本気で思っていても、体は足りていないものを欲するものだ。