第16章 柱と温泉
未だに夢だと思い込んでいる更紗に苦い顔をして、杏寿郎はそれならばと抱き寄せていた体を布団の上へ寝かし、その上へ跨って覆いかぶさり頬から首筋をゆっくりと撫でる。
「君を襲えば夢ではないと信じて貰えるだろうか?」
顔を真っ赤にして目を見開く更紗をよそに、杏寿郎は深い口付けを落としながら隊服の釦を上から1つずつ外していく。
最後の1つというところで更紗の羞恥心が爆発したのか、慌てて杏寿郎の手を握りしめて動きを止め、顔を離した杏寿郎を見つめた。
「し、信じました!夢ではなく目の前の杏寿郎君は本物です!おはようございます!でもここ最近水浴びしか出来ていませんので汚れています!ですので……」
確かに隊服は新しい物を支給してもらったので小綺麗だが、そこから覗く肌は小さな傷がついていたり泥がうっすらと滲んでいたりしている。
「おはよう!君が言う汚れは気にならんが……水浴び。今回は緊急事態故深く追求するまい。何より更紗が無事でよかった」
ポスンと更紗の胸元に力なく体を預けた杏寿郎の背に腕を回し、ギュッと温かさを噛み締めるように力を入れた。
「ご心配おかけして申し訳ございません。ですが、水浴びに関しては心配無用です!隊服を着たまま水浴びをしたので肌は出しておりません!」