第16章 柱と温泉
ここ最近の更紗の生活を垣間見た杏寿郎は堪らず今にも部屋から飛び出しそうな体を抱き寄せた。
「探す必要はない。ここは刀鍛冶の里、更紗の日輪刀は鉄穴森さんに預け修理を依頼した。君はもう少し休んでいなさい……睡眠不足や栄養不足は更紗の力で補えるものではないのだ」
飛び起きたと同時に懐かしい温かさと声が更紗を刺激するが、まだ夢現状態なのか現状を上手く把握しきれていないようだ。
その証拠にいつもは杏寿郎の背に回される腕が力なくダランと下に垂れ下がったままである。
「私……まだ夢でも見ているのでしょうか?夢だけでも会いたいと願ったから……どうか覚めないで、もう少しだけこのままいさせて」
「夢ではない。俺が里へ一足先に到着していると聞いていただろう?運んでもらっている時に、隠の方がそう教えてくれたのだが」
聞いていない。
そう更紗へ伝えるはずだった鈴村はうっかりして言いそびれてしまっていたので。
もちろん更紗は首を傾げている。
「お聞きしておりませんよ?……夢でもいいです。こうして杏寿郎君に抱き締めてもらえるなら夢でも幸せです」