第16章 柱と温泉
すっかり日も暮れ、空には見事な満月が浮かんでいる。
(そう言えば更紗をあの屋敷から連れ出したのも満月の夜だったな。あの時はこんな未来になるなど、想像もしていなかった)
あれから1年以上の月日が流れたが、まだ1年。
特異な能力に驚いたものの、弟子として迎え入れ育て鬼殺隊へ無事に入隊。
様々な人の助けを受けながら、自らの能力で多くの命を救いながら鍛錬や任務をこなし、今や立派な鬼殺隊剣士へと成長した。
今までもこれからも特異な能力故に過酷な人生を強いられているが、腐ることなく懸命にその運命と闘っている。
「君は強いが融通がきかなくて困らされる。今回の件でも、もっと早くに頼ってくれればここまで更紗は衰弱しなくて済んだのだぞ」
額に流れる銀色の髪をサラリと梳くと、あの屋敷で付けられた古傷がチラと顔を覗かせた。
それがなんとも杏寿郎の心を掻き乱すので、気持ちを落ち着かせるために滑らかな頬を撫で寝顔を覗き込む。
すると突如更紗が目をバチッと開き、物凄い勢いで飛び起きた。
「もう夜じゃないですか!鬼が来ちゃう……刀……あれ?!日輪刀がない!どうしよう……どこに忘れたのかな。探さないと!」