第16章 柱と温泉
普段の隠に対する対応で睡眠時間を獲得していた少女はそんな事知る由もなく、未だに目隠し耳栓をしたままスヤスヤと寝息を立てている。
「君も疲れているだろうにすまないな。君のことは更紗にも伝えておく。さぁ、この子は俺が預かるので君も休んでくれ、ここまで更紗を運んでくれて感謝しかない」
柱にここまで感謝され恐縮した隠はブンブンと首を左右に振りながら更紗を起こさないよう、ソッと杏寿郎へ体の引き渡しを行った。
渡った後に目隠しと耳栓をゆっくりと外してやると、こそばゆそうに体を捩らせ少し声を漏らして夢の世界から徐々に覚醒してしまう。
隠は涙目で杏寿郎を見つめるが、なんてことはないと言うように笑顔を返した。
「ん……杏寿郎君、おはようございます。私……まだ少し眠くて」
「眠っていて構わない。もう少し共に眠ろう」
「はい、次に起きたら……さつまいものお味噌汁……作ります」
再び夢の世界へ旅立って行った。
どうやら自分の家で目を覚まし日常を送っていると勘違いしているようだ。
そんな様子に杏寿郎と隠は静かに笑い合うと、各々が体を休める部屋へと足を向ける。
更紗が完全に目を覚ますまであと少し。