第16章 柱と温泉
杏寿郎は蜜璃にクルリと体を反転させられ、トンと軽く背を押され1歩前へ踏み出すが立ち止まったまま振り向く。
「気遣い感謝する。更紗も甘露寺の顔を見れると喜ぶと思うので、いつでも部屋に来てくれ!待っているぞ!」
「はい!私も更紗ちゃんに会えるの楽しみにしてますね!」
蜜璃の花のような笑顔に1つ頷きを返して杏寿郎は早足に廊下を進み、今度は誰にも遭遇しないまま里の出入口の近くまで来た。
そこには既に更紗を連れた隠が先に到着しており、出入口付近で立ち尽くしていた。
杏寿郎はその隠へと駆け寄って声を掛ける。
「ここまでご苦労だった。後ろの子は眠っているのか?」
立ち尽くしていた要因は運んできた剣士が眠ってしまっていたからだった。
あまりにも気持ちよさそうに寝息を立てて眠っているので、声を掛けようにも気が引けてしまったようだ。
「はい。つい先程まで起きてらしたのですが、疲れが限界に達して眠ってしまったようですね。通常なら叩き起すのですが、何度か任務でご一緒させてもらった時に労ってもらったりご飯を分けてもらったりしたので……せめてもう少しこのまま寝かせてさしあげようかと思っていました」