第16章 柱と温泉
杏寿郎が刀鍛冶の里で更紗の到着を待ち望んでいる事など知らない更紗は、再び訪れたと思われた危機的状況に体を震わせていた。
「いや、離して!もうヤダ!」
「月神さん!大丈夫、私だよ!鈴村。覚えてる?裁縫係の鈴村だよ!怖がらないで、目を開けて」
聞き覚えのある声だが、警戒心を解ききれない更紗は恐る恐る目を開けてその姿を確認する。
するとそこに居たのは鬼ではなく、優しく微笑みかけてくれる鈴村本人であった。
「鈴村さん……どうしてここに?ダメ……私に近付いたら鬼に狙われるかもしれません!」
弱々しく後退る更紗の肩を鈴村は抱き寄せ、安心させるようにゆっくりと背中を撫でてやる。
「大丈夫だよ、周りは隠の人たちが見張ってくれてるから。もう1人で頑張らなくていいんだよ。私ね、月神さんが少し前に上弦の鬼を倒したって聞いたから、傷んでるかもしれないと思って新しい隊服を作ってたの。でも、いざ届けてもらおうと思ったら鬼に攫われて行方不明だって……もう心配で心配で、見つかったって教えてもらったら、いてもたってもいられなくてここまで来ちゃった」
更紗から鈴村の表情は見えないが、僅かに声が震えているので泣いているのかもしれない。