第16章 柱と温泉
手紙が杏寿郎の元へ届けられてから3日経過した正午、更紗はまた別の街へと食料を求めてやって来ていたが、足元はおぼつかず目の下にはクマがうっすら浮かんでいた。
夜は休むことなく鬼から追われ、朝から日暮れまでは人目を避けて僅かな休息をとる生活を続けるのは想像以上に過酷だったのだ。
「宿で休みたい……でも他の人に危険が及ぶかもしれませんし、お金にも余裕が……何よりこんなに薄汚れていれば宿の人にご迷惑になりますよね」
すっかり独り言が板に付いてきた更紗は道行く人の視線など全く気にならなくなっていた。
中にはそんな更紗を心配して声をかけてくれる人もいたが、どの人に対しても礼を述べるだけで終わらせている。
「皆さん……杏寿郎君や天元君、柱の皆さんはお元気でしょうか?炭治郎さんたちも日々の任務で疲れていなければいいのですが」
人の心配している本人が誰より今1番疲れており元気もない。
それには気付かず更紗は疲れからか目眩に襲われ、商店の外壁へ背中を預けてそれが治まるのを待っていた。
「無尽蔵に動けても睡眠や栄養が足りなければこうなるのですね。いい勉強に……」
完全に力を抜いていた更紗の腕が強い力で横路地へと引っ張られた。
それにトラウマがあり恐怖が蘇るが、今の更紗には抵抗する力は残っていない。