第16章 柱と温泉
睡眠もそうだが、金銭的な問題も切実だ。
伊之助ならば山育ちなのでお金が底をついても、培われてきた知識で食料に困らないだろうが、更紗はある意味箱入り娘である。
極端に外界との接触を絶たれ、その時生きるのに必要な情報のみを与えられて生きてきた。
杏寿郎に連れ出して貰ってからは、木の実や野いちごなど山で食べられるものを教えてもらったりしたが、都合良く見つかるとも限らない。
「……私って生活力が皆無です。はぁ……独り言ばかり寂しい。かと言って後をつけてきている鬼……恐らく猗窩座でしょうが、話し相手になってもらうなど願い下げですし」
クルリと後ろを振り返るが、夜も深けた今は深い闇が広がっているだけで余計に更紗の恐怖心に拍車がかかった。
生まれてこの方、夜に出歩くなど任務以外でした事のない更紗にとって、暗闇は普通に生活を営んでいる人々よりも得体の知れない不気味なものにうつる。
「怖い……でも生きるために動かないと!そうです、歌でも歌って気を紛らわしながら……あれ、私指切りげんまんしか知りません……うん、でも静寂より幾らか気は紛れますよね」
更紗が機嫌よく指切りの歌を永遠と繰り返したことにより、ここら一帯で
指切りげんまんを夜な夜な歌いながら歩く少女の霊が出る
と恐怖の対象認定されたことは言うまでもない。