第16章 柱と温泉
いつもの溌剌とした声ではないが、静かながらも聞き取りやすい声に天元は耳を傾け、視線を杏寿郎へと向けた。
「あの子は俺の前ですら顔にも態度にも出さんが、酷く怯えている夜があるのだ。治癒の力がある故にいつ鬼舞辻に攫われるかも分からんからな……それがどれ程の恐怖だろうかと考えても俺では想像もつかない。それならばいっその事、鬼殺隊を抜けさせて賜った屋敷で籠らせてやった方が幸せなのではないか……と考えてしまう」
そう思うだけに留まっているのは、それを更紗が望まないと分かっているからだ。
誰かを救える力があるのに、自分だけ安全な場所で守られているだけなど泣いて嫌がるだろう。
天元もそんな更紗の姿が容易に浮かび、ため息を漏らした。
「大抵の奴はそれのが幸せだろうな。こう言っちゃなんだが……姫さんは敢えて危険な場所へ自ら突っ込んでいく節があるだろ?あれ、どうにかしねぇといつか本当に洒落になんなくなるぞ……つっても、聞きゃあしねぇから煉獄もそんな考えが浮かぶんだろうがな!ま、姫さん戻ってもしばらく様子見てから、また考えればいいんじゃねえか?」
今は不可抗力で危険な場所へ連れ去られてしまった更紗であるが、戻り次第杏寿郎と天元から新たな教育を施されるだろう。