第16章 柱と温泉
最後の言葉は神久夜には届かないほど小さく震えていた。
悲しみを堪えながら、更紗は神久夜へ攻撃を仕掛けようともがく猗窩座の腕ごと抱きつくかたちで拘束していると、様々な感情が胸中で入り乱れ昂ったのか、首筋から頬へかけて色濃く痣が浮かび上がった。
「行かせない!あの子は絶対に殺させない!手足を千切られても貴方を離さないから!」
痣の顕現と共に拘束する力が劇的に強くなり、鈍い音が猗窩座の体から響いているがそれでも力は弱まらない。
普通ならば顔を歪めるほどの痛みを伴うはずだが、猗窩座は歪な笑みを浮かべながら更紗を足払いして床へと拘束した。
「放して……触らないで!どうして私から居場所を奪うの?!ただそばにいたいだけなのに……いつも鬼は私から大切な人や居場所を奪っていく!私はこんな所で死ぬのも利用されるのも鬼にされるのも嫌!もう……やめてよ。杏寿郎君に会わせてよ」
涙をポロポロ流す更紗に対して猗窩座は変わらず歪な笑みを向け、何度も退けた提案を繰り返す。
「杏寿郎のそばにいたいならば、杏寿郎共々お前も鬼になればいいだろう?怪我もすぐに回復し寿命もない。鬼になると言え。鬼となってその不可解な力を使って俺と戦い続けろ!」