第16章 柱と温泉
不可解な更紗の行動に猗窩座も顔をしかめる。
それもそのはずだ、鬼である猗窩座を倒せるのは玉鋼を元に作られた日輪刀のみなのだから。
それを二刀流でもない更紗が左手に持ち替え、ただの棒切れを利き手に持てば訝しむのは当たり前だろう。
だが更紗もただの馬鹿ではない。
どんな時も真っ直ぐな杏寿郎だけでなく、忍として罠や不意打ちを上手く利用する天元にも育ててもらった。
それは格上である実弥の不意をつくことも可能にしたのだ。
「人は成長するんですよ。馬鹿にして油断してると痛い目みるから!」
更紗は右手を振りかぶり、木刀を猗窩座の頭を貫通させるように全ての力を込めて投げつけた。
もちろんそんな攻撃を躱す事など、猗窩座からすれば空中を漂う羽を避けるより簡単な事だ。
「無駄な足掻きを」
躱した瞬間、背後から硝子が砕け散る音が響く。
そしてその音を待っていたと言わんばかりの速度で黒い何かが猗窩座の視界の端を横切った。
反射的にそれへ攻撃を仕掛けようとしたが、凄まじい力で温かいものが絡みついてきて取り逃してしまう。
「神久夜さん!ここへは戻らないで!生きていれば……人として生きていれば会いに行きます!」