第16章 柱と温泉
刃を向けられているにも関わらず、猗窩座は顔色ひとつ変えずに更紗をただ見つめているだけだ。
攻撃してくる素振りもなければ、日輪刀を手にしたことに対してすら特に何も感じていないようである。
(私をここへ連れてきた理由は想像がつきますが……拘束すらしない理由が分からない。このまま帰らせてもらえる……とか?)
普通に考えれば有り得ないが、既にこの状況が有り得ないのでダメで元々…… 更紗は神久夜を肩へと呼び寄せ猗窩座に思い切って聞いてみた。
「ここへ連れて来たのは鬼舞辻無惨の命令によるものだと思いますが……本人がいないのならば帰らせていただいてよろしいでしょうか?生憎、私は貴方たちに利用されるわけにはまいりませんので」
「お前は弱い上に馬鹿なのか?」
思ったより辛辣な言葉が返ってきてしまった。
だが更紗も諦めるわけにはいかない。
このままここにいては今は姿が見えなくとも、いずれ鬼舞辻が現れるだろう。
そうなれば自分の身はおろか、鬼殺隊に大きな損害を与えることになるかもしれない。
「帰していただけないようですので、力尽くで推し通らせてもらいます!」
更紗は日輪刀を左手に持ち、右手で腰に指したままだった木刀を抜き取る。