第16章 柱と温泉
返事も忘れて産屋敷家へと要が翼を羽ばたかせた頃、更紗は日輪刀を手に持ち神久夜を外へ出す算段を立てていた。
ほんの数秒前、強い力で引かれたかと思うと目の前で見覚えのある障子が閉まり、杏寿郎と天元の背中は一瞬で見えなくなる。
「杏寿郎君、天元君!」
つい先程まで夕日に照らされていた2人の名を呼ぶか、返ってきたのは2人とは似ても似つかない冷たく、背筋が凍るような声だった。
「煩い、騒ぐな」
忘れたくても忘れられない……1人では決して対峙したくなかった者へと向き直りその姿を目に入れる。
「猗窩座……」
咄嗟に日輪刀を抜き取ろうと左腰に手を持っていくが、手に当たったものは日輪刀ではなく木刀。
あまりの絶望的な状況に愕然とする更紗へ光を照らす声が掛けられた。
「更紗サン!コレを!」
声のする方へ視線を動かすと、数え切れないほどの本が並べられた本棚の上で神久夜が小さな体で懸命に更紗の日輪刀を下へ落とそうと押している姿が映る。
それと同時に猗窩座が反応するより速く本棚の下へ移動して、落下している最中の日輪刀を手に取り、すかさず鞘から抜き取って猗窩座へと刃を向ける。