第16章 柱と温泉
ハッとして義勇へと更紗が向き直ると、居心地悪そうに顔をしかめながらこちらへ歩いて来ているところだった。
「傷は浅いので後回しにしていました!すぐに治します」
フワフワと粒子を纏わせて一瞬で傷を塞ぐと、目の前に到着した義勇から隊服の袖口でゴシゴシと頬や額に流れていた血を拭われ、顔半分が様々な方向に伸ばされた。
「冨岡様、隊服が汚れます!もう傷……治ったので……顔はあとで、洗えば」
「隊服こそ後で洗えばいい。すまなかった、血を流させるつもりはなかった……」
「血の汚れは落ちづらいですよ……それとあの傷は私の力不足によるものなので冨岡様が気になさることではありません!それより杏寿郎君をしのぶさんに」
クルッと身を翻してしのぶの元へと走り去ろうとする更紗の手首を杏寿郎がしっかり掴んで止めると、何をするんだと雄弁に語る視線を向けてきた。
「君は自分が今どのような状態か理解出来ていないようなので説明するが、俺の顔に痣があるように更紗も出ている。その君が元気に動き回っているのに、俺が棄権するわけにはいかんだろう」
不満げな更紗から手を離すと杏寿郎は背を向けて地面へ捨てた木刀に向けて歩を進め、目的の物を両手で握り締め更紗へと笑顔で向き直る。
「まだ試合は終わってないのだろう?早く木刀を取らないと……負けになるぞ!」
容赦なく振り上げられた木刀により、更紗は痣の出現で力の増した杏寿郎と、まだまだ余裕のある義勇を相手に試合を拒否する間もなく続けさせられた。