第16章 柱と温泉
だがこのままでは衝撃で更紗の脳に多大な損傷を与えかねないと判断した杏寿郎は、上体を僅かにずらして飛び込んできた更紗を腕だけで抱きとめクルリとその場で回った。
「無茶をするなといつも言っているだろう……治癒不能な損傷を受けたらどうするつもりだ」
「だって痣が……杏寿郎君の顔に痣が出てきたから!貴方を失うのは何より怖いんです」
プラプラと地面から体を浮かされた状態のまま、更紗は手を震わせながら鞄へ突っ込んで小瓶を取り出し、蓋を開けると有無を言わさず飲み口を杏寿郎の口へ差し込んだ。
「ブフッ!ゲホッ……一言声を掛けてくれると助かったのだが」
危うく抑制剤が気管に入りそうになるもどうにか中身を飲み干して更紗を地面へと下ろしてやる。
下から見上げてくる薄い赫になった瞳は不安だと言葉にせずとも分かるくらいに揺らいでいた。
「大丈夫ですか?辛くないですか?副作用は……」
不安から出てくるとめどない質問に、杏寿郎は眉を下げて困ったように笑いながら一つ一つ答えてやる。
「大丈夫だ、辛くもないし副作用も抑えられた。俺の心配より君は額の傷を先に治しなさい。冨岡も気にしているぞ」